「利き手はどっち?」その2
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筆者は実は左利きだった…ことは前回に述べた。
その後右利きに矯正されたが、中途半端に左利きの痕跡が残っている。この中途半端な左利き状態がちょっとした悲劇を生んでいるのだ。
この世は右利き偏重、左利き蔑視の世界である。左利きだと何かと生きづらい。左利きの痕跡しか残っていない筆者が言うのであるから、真の左利きの方々は本当に苦労しているだろうと思う。
代表的なもので言うと、ハサミは右利き用である。御存知の方も多いと思われるが、よく分からない方は紙に線を引いて、その線に沿って左手にハサミを持って切ろうとしてみればよくわかる。ハサミの刃の付き方(上の刃が右側で下の刃が左側)が右利き仕様なのである。
その他、衣服などのデザインも右利き用のものが多い。
実は筆者は左利きの名残りで、服を着るときには必ず左手から袖を通す。ところが高級レストランや散髪屋、或いは服飾店で店員さんなどから衣服を着せてもらう時は、店員さんは必ず右手から袖を通そうとする。あれでは筆者が着にくくて仕方がないのだ。右手から通されるくらいなら、自分で着たほうがずっと楽なのである。
意外なところではベルトのバックルのデザインも右利き用だ。筆者はベルトを通す時も左手でベルトを持つ。この方法だと、右利きの人とは逆の巻き方になる。そうするとバックルのデザインは上下逆になってしまうのである。筆者は昔、バックルに「P」という文字のデザインの入ったベルトを持っていたが、筆者が巻くとバックルの文字が上下逆さま、つまり「d」になってしまうのだ。それ以来、筆者はバックルのデザインが上下対称になっているベルトしか購入していない。
さらにポーチの取っ手とブランド名などが記されたエンブレムの位置関係、これも右利き用だ。エンブレムを正面にすると、取っ手は必ず左に付いているはずである。これは取っ手を右手で持った場合にエンブレムが外側に向くように出来ているのである。ところが筆者はポーチも左手で持つ。そうするとエンブレムは内側に向いてしまうので、どのブランドのポーチを持っているかを周囲に示すことが出来ないのだ。
服飾関係で言えば、もっとも左利きに惨い仕打ちは胸ポケットの位置である。あの胸ポケット、1つしかない場合は必ず左胸についているではないか。あれは右手でポケットを探りやすいようにしているのである。左手で無理に左胸のポケットを探ろうとすれば、左肘が大きく張り出す形になってしまう。
実はこの肘で筆者は哀しい経験に遭ったことがあるのだ。
あれは筆者が高校生の時だ。登校時、下車する駅で胸ポケットから定期券を取り出そうとした。制服の胸ポケットも当然左側にある。左利きだった筆者はそれをいつも左手で取り出していた。当然左肘が大きく横に張り出す。と、そこに、筆者の通っていた高校の付属幼稚園の男子園児が勢いよく飛び込んできたのだ。
まさしく偶然という奴である。筆者が定期を取り出そうとした時と、彼が走りこんできた時はまさに同時だった。しかも彼の頭部はちょうど筆者の肘の位置にあったのである。結局、筆者は園児の頭部を激しく肘打ちすることになってしまった。まさしく必殺のエルボースマッシュが園児の頭部に炸裂したのだ。
その男子園児はもんどりうって転倒した。一瞬、筆者には何が起こったのか理解できなかったのであるが、とにかく園児に謝ろうとした。しかし園児は泣きながら起き上がるとすぐさま後方にいた母親に向かって走り出し、大声で母親にこう告げたのだ。
「あのお兄ちゃんが殴った!」
…ご、誤解だ。あれは偶然の事故だ。さもなくば筆者の天性の格闘技センスが無意識のうちに発露してしまったに過ぎないのだ。
筆者は焦ったが、後方から見ていた母親にはよく事情が分かっていたらしく、不問に付してくれた。いいお母さんで本当に助かった。
実は格闘技センスもあったかもしれない筆者をノックダウンするような強烈なコメント・メールをお待ちしている。エルボースマッシュが必殺技の筆者が相手になってやろうではないか。