スイスマイナー旅行記番外編 -ヌーシャテル編-
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このコーナーではスイスのマイナーな街のマイナーなお気に入りスポットを紹介してきた。つまらない、との声にも関わらずだ。
今回はその逆を狙ってみたい。つまり、比較的メジャーな街で、筆者が全く気に入らなかったスポットを紹介するのだ。
この記念すべき不名誉を担ったのは「ヌーシャテル(Neuchatel)」だ。但し筆者は諸君も御存知のようにひねくれ者だ。案外筆者が気に入らなかった場所の方がお勧めかもしれない。その心積もりで読んでもらいたい。ヌーシャテルはスイスの北西に位置するヌーシャテル湖に面した街だ。スイスの中ではもっとも綺麗なフランス語を使うと自負しているフランス語圏の街である。筆者のつまらん駄文以外に情報が欲しい方はここをクリックしたまえ。
ヌーシャテルには旧市街もある。「バターの塊をくりぬいたような」と評されることで有名な旧市街だ。ただ、写真にもあるこの街並みを見てバターに見えるかどうかは諸君の感性次第である。
筆者がここを気に入らなかった理由は2つある。
1つ目は落書きの多さ、である。駅から旧市街へ向かう途中で、はたまた旧市街内でも多くの建物に心無い落書きが書き散らしてあった。
チューリッヒにも落書きは多い。しかしヌーシャテルはそれ以上だ。今まで訪問した街ではもっともひどい。こちらの落書きはアートっぽいものが多いのであるが、ヌーシャテルの落書きはアートっぽくすらない。
これさえなければ綺麗な街並みであろうに、誠に残念である。きっと心無い輩が多く住んでいるのであろう。ヌーシャテル当局者は一刻も早くこの問題を解決すべきだ。これを読んだなら早急に対処せよ。・・・まあ読んでいるわけがないが。もっとも、筆者が訪れたのは昨年だから、もう対処済みかもしれない。
落書きだらけのこの街で、筆者を癒してくれた唯一のものはこれだった。
前回の蝶に引き続いて「トンボ」だ。トンボが苦手な皆さん、すまん。ただヌーシャテルにはこのトンボしかいない。トンボ嫌いの方もここさえ避ければ大丈夫だ。
さて、もう1つの理由はもっと深刻である。実は筆者はこの街で史上稀に見る未曾有の大犯罪に巻き込まれそうになったのだ。
・・・大げさに書きすぎた。すまん。スイスは治安のいい国だ。大犯罪は滅多にない。ただし、旅行者相手の軽犯罪は結構ある。下手糞なスリなども多い。特に日本人旅行者はお金を持っていると思われている。彼らのターゲットは主に日本人女性だ。ご旅行の際には、特に駅などの周辺では身の回りに充分気配りしてもらいたい。
とは言え、筆者はこの犯罪を有り余る機転で未然に防いだのである。防いでいなければどうなっていたか分からないのだ。前言もあながち嘘ではあるまい。今となっては誰にも分からぬことなのだ。
・・・さて、話を筆者の経験談に戻す。
筆者は旧市街中心の広場を通り抜けて、旧市街の端の方へとふらふら歩いていた。その広場には見るからに目つきの悪い挙動不審なチンピラが2人ほどいた。顔から察するにスパニッシュ系である。彼らは広場の別々のところに陣取っていた。しかしである。筆者が広場を渡りきろうとするや否や、示しあわせたかのように2人が合流したのだ。
筆者のアンテナは何であれ変なものには敏感である。当然、人間に関しても挙動不審の野郎を見つける術に長けている。筆者はこの2人のチンピラの行動にピンと来た。こいつは何かある!と。
筆者が広場を抜けてある通りに入ると、案の定その2人も付いてきた。50mほどの間隔を空けて、筆者の後を正確に付いてくる。
筆者は巧みに視界に2人のチンピラを捉えつつ、ゆっくりと歩いた。そろそろ旧市街も終わりに近づいてきた。人込みは少なくなるばかりだ。もう少し歩けば筆者とチンピラだけになってしまう。
筆者にはこのチンピラどもが尾行しているのかどうかの確証が持てなかった。しかし、である。犯罪目的で尾行しているとすれば、そろそろ手を打たないとやばい。
走って逃げるか?でも逃げるのは筆者のプライドが許さない。それに筆者に運動神経は皆無だ。走っても逃げ切れる可能性が少ない。むしろ途中で転んで自爆してしまう可能性が高い。それに彼らの行動が筆者の尾行でないとしたら、いきなり走り出すのも筆者の恥さらしである。こっちこそが挙動不審なアジア人になってしまう。
筆者の頭は普段は休眠状態だ。しかしこのようなピンチに陥ると、少ないクロック数をフル回転して働き出す。筆者はこいつらが尾行しているかどうかを確かめる方法を思いついた。それも大阪人根性丸出しの方法だ。からかってやれ、と思ったのだ。
皆さんが誰かを尾行しているとしよう。その際、最も対処に困る尾行対象の行動は何だと思われるか。
尾行している相手が、急に反転してこちらに向かってきたらどうだ?尾行するには相手の後ろに回らねばならぬ。プロならばそっとやり過ごして付け直すなどの方法もありうるだろうが、その瞬間にはかなり動揺するはずだ。それにこいつらはチンピラだ。プロっぽくもない。とにもかくにも、筆者が反転すれば、こいつらが動揺するかどうかは顔色を見ればわかる。尾行していたのでなければ、何も驚き困ることなくすれ違うだけであろう。もしチンピラどもがこれを上手にかわして尾行を続けたとしても、その時はそのときだ。別の方法でからかってやる。
立ち止まってから反転しては相手に考える余裕を与えてしまう。筆者は歩行速度を緩めることなく、何の前触れもなく180度反転を敢行した。
その瞬間にチンピラを見てやった。彼らは驚きと困惑の表情を浮かべ、急に棒立ちになってしまった。明らかにどうしていいものか悩んでいたようだ。やっぱり尾行していたのである。
筆者はチンピラどもに「俺は気付いてたんやで!」という鋭い視線を送りつつも、呆然としている奴らの横を通り過ぎた。チンピラどももさすがに諦めたようだ。別々になって小さな通りへと消えた。なんという知恵足らずだ。もっと狡猾にやれ。でないと筆者もからかい甲斐がないではないか。大勝利の満足感と相手に対する物足りなさを感じながらも、筆者はヌーシャテルを後にした。
スイスにはこのような軽犯罪を狙うチンピラもいる。チューリッヒも同様だ。似たような方法で、スリを狙っていたチンピラを撃退したこともある。ただし、である。こいつらは狡猾ではない。知恵が足りない。確実に休眠状態の筆者よりは足りない。何よりも筆者をターゲットにすること自体が間違っている。筆者には金はない。であるから、旅行者の皆さんも少し注意していれば充分に防げる。スイスは安全だ。是非とも遊びに来ていただきたい。