スイスの銀行に口座があるのだ
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あの有名なスイスの銀行に、である。闇資金の洗浄で有名なスイスの銀行だ。匿名口座で有名なスイスの銀行だ。ミステリ小説ではマフィアやスパイの資金の隠し場所として必ず出てくるスイスの銀行だ。チューリッヒは金融の街である。チューリッヒの駅前通りにはスイスの2大銀行の金塊が眠っているのだ。
まあ御想像はつくと思うが、筆者の資金はたかが知れている。並以下である。お金目当ての皆さん、筆者と知り合いになっても何の利点もない。
スイスで生活しているのだろう、スイスの銀行に口座があって当たり前ではないか、と突っ込みを入れた諸君、その通りだ。ぐうの音も出ない。しかし筆者にはこれくらいしか自慢のタネがないのだ。笑い話のタネならいくらでもある筆者でも、自慢のタネはこれくらしかないのだ。許せ。
筆者はスイスに来てから早速銀行口座を開設すべく奔走した。でないと給料が振り込んでもらえない。筆者がまず目を付けたのは「Zuercher Kantonal Bank」という銀行である。無理やり訳すと「チューリッヒ州立銀行」とでもなるのだろうか。ここのATMは職場にもあるし便利だ。しかし筆者より以前にチューリッヒに来ていた日本人の友人の話を聞いてあきらめた。彼もまずはここに目を付けていたらしいのだが、口座の開設を申し込むと敢然とこう言われたそうなのだ。
「口座を開設するには、まず50,000スイスフランの自己資金を預金していただく必要があります。」
50,000スイスフランと言われても多くの読者にはピンとこないであろう。ちなみに1スイスフランはだいたい90円前後だ。つまり50,000スイスフランとは日本円で約450万円である。
筆者にはこんな金はない。さすがスイスの銀行だ。スケールが違う。いきなり450万円を預けろ、とは。筆者はここは諦めて、ATMが至るところにある大銀行に目標を切り替えた。
スイスの2大銀行とは「UBS銀行」「Credit Swiss(クレディースイス)銀行」だ。街並みを見廻したところ、明らかにUBS銀行のATMの方が目立つし多い。筆者はUBS銀行に乗り込んだ。
なんたって大銀行だ。どれほどの預金が最初に必要なのか想像もつかない。しかし聞けば初期預金は200スイスフランからでOKという。
桁が2つほど違う。200スイスフランなら18,000円ほどだ。これくらいの資金なら筆者にもある。こうして筆者はスイスの大銀行に口座を持つことになったのだ。
欧米は日本とは違ってサイン文化である。銀行印なぞ必要はない。筆者も口座開設の際にはサインを求められた。ちなみに筆者のサインは漢字である。サインといえばアルファベットで書くものと勘違いされている向きもあるかもしれないが、漢字でも充分に通じる。サインとは本人識別のための手段である。漢字の名前なら書きなれているから筆跡が大きく変わることもない。アルファベットのサインでは書き慣れないために同じサインをする自信がない。それに欧米人には漢字は未知の領域だ。偽造される可能性も少ない。このような理由から、筆者はこちらに来てから全ての書類を漢字のサインで押し通した。もちろんパスポートも就労ビザもサインは漢字だ。文句を言われたことなぞ1度もない。むしろ漢字は喜ばれる。感心される。こっちの人は漢字をアートとして捉えているのだ。
考えてみれば、アルファベット文化の人々は文字といえばアルファべットだけだ。せいぜい30文字程度を知っていれば充分なのだ。それに比べて日本を見よ。我々は平仮名50文字にカタカナ50文字、それに加えて無限とも言える漢字を使いこなしている。全てを足せばおよそアルファベットの100倍だ。中国ではどれくらいの漢字数を使用しているのかは定かではないが、我々日本人は世界でも有数の多くの文字を使いこなす民族であることは間違いない。何も欧米に対して卑下する必要はない。この点だけでも世界に誇れる。
…話がそれた。口座開設の際ももちろん漢字でサインした。ところが、である。後日UBS銀行から手紙が来た。
「残念ながら当行ではアジアフォントのサインを受け付けておりません。もう1度アルファベットでのサインをお願いします。」
な、なんだと!アジア民族を馬鹿にしているのか?たとえそうでも最初からそう言え。
筆者は憤りを隠せなかったが、郷に入れば郷に従わねばならぬ。泣く泣くアルファベットの拙いサインをした。
世界はグローバル化している。スイスでも日本、アジアの認識も進んでいる。しかし、この例にもあるように、まだまだアジアは欧米からは認知されていないことも多い。そのような例についてはこれからもレポートしよう。
笑い話のつもりだったが、妙に社会派の記事になってしまった。次こそは笑わせるから許してくれ。