【トラムに巣食う者ども 乞食編】
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要するに「乞食」と言うか「物貰い」である。数こそ少ないが、ここチューリッヒにも存在するのだ。民族性の違いを反映しているのか、何故か彼らの挙動は日本の乞食とは大きく異なるのだ。
日本における乞食の一般的なイメージとしては、路上に同情を誘う格好で座り込み、空き缶などを前において誰かが恵んでくれるのを待つ、といったものではないだろうか?(ただし、最近の実情は知らない)。あくまで消極的な慎ましい姿勢である。
ところがどっこい、こちらの乞食は積極的なのだ。換言すれば、「ずうずうしい」のである。日本では直接的に言われなくても互いの気持ちを推し量ることが美徳というか、当然のこととされているが、こちらは違う。あくまで自分の気持ちははっきりと主張しなければ誰もわかってくれない。乞食だって同じなのだ。ただ座って待っているだけではダメなのである。トラムの停留所などでは、彼らはトラム待ちの乗客を1人1人訪ね歩き、皆に「お金かタバコをくれ」と声をかけてまわるのである。座ってなんかはいられない。常に動いているのだ。
乞食にこう声を掛けられても、無視してはいけない。彼らは返事がないと「くれるかもしれない」と思って何度も同じ台詞を繰り返して待っているのである。はっきりと
と言わなければ立ち去らないのだ。
お金を恵んでもらう立場にしてはずうずうしいことこの上ない、と思ってしまうのは筆者が日本人だからだろうか。1度、あまりに腹が立ったので、「英語で話せっ!」と怒鳴ったことがあるのだが、それでも彼らはめげない。しっかりと流暢な英語で「1フランか2フラン、もしくはタバコを1本恵んでくれ」と言ってくるのだ。
乞食も観光客慣れしているのか、はたまた結構教養が高いかのどちらかであろう。
「いやじゃっ!」と断って立ち去る乞食はまだ可愛い。もっと凄いのになると、
と言っているのに
と怒りの形相で凄んでくる乞食もいるのだ。完全な立場逆転である。とても物を恵んでもらう人間の態度とは思えない。この乞食は爺さんで、トラムの停留所ではトラム待ちの乗客1人1人と5分以上も交渉(口論?)していたりするのだ。ここまで来ると立派な恐喝・カツアゲである。
そして、この乞食たち、トラムの停留所のみならず、トラムにも乗り込んで営業してくるのだ。
トラムに乗り込んだ乞食は、乗客の1人1人に「恵んでくれ」と声を掛けていくのである。無視した奴のそばでずっと待っていることもある。とにかく、全員に声を掛けたあとでトラムを降りる。そして逆方向のトラムに乗り込んで同じ営業を繰り返すのだ。
奴らは絶対にトラムの乗車券など買っていないに違いない。このトラム、たまに抜き打ちの検札があるだけで、無賃でも簡単に乗れるのである。このあたり、こちらの人々は性善説だ。人は基本的には悪いことはしないものという論理なのである。無賃乗車がばれた場合の罰金は80スイスフランと年々値上がりしている。1度この乞食がいる際に検札して欲しいのだが、残念ながら未だこの光景には出くわしたことがない。
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