【トラムに巣食う者ども 大道芸人編】
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この週末のテーマは「トラムに巣食う者ども」なのだ。第1回目の今夜は「大道芸人編」である。
トラムとは路面電車のことである。スイスの大きな都市ではトラムが市街地を縦横無尽に走っている。チューリッヒも例外ではない。チューリッヒには13路線のトラム(ライン2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 13, 14, 15:何故か1番と12番は欠番)が走っている。
このトラムへ楽器(殆どギター、稀にアコーディオンなど)片手に乗り込み、有無を言わせず演奏を始めてしまう人達がいる。彼らこそが大道芸人なのである。
彼らはトラムに乗り込むと中央の連結部に陣取る。トラムがスタートするや否や演奏や歌唱を開始するのである。曲はせいぜい2曲。だいたい3停留所、時間にして5分くらいである。演奏が終わると帽子片手にトラム車内を歩き回ってお金を集めるのだ。そしてまた逆方向のトラムに乗って同じことを繰り返す。
中には上手い人もいるが、素人に毛が生えたような奴も多い。しかも彼らは毎日同じ路線、同じ区間で同じ曲(ヴァリエーションは非常に少ない)を演奏するのだ。これが帰宅時間に一致すると大変だ。筆者は既にある人の演奏を20回以上は聴いている。しかも全て同じ曲なのだ。既に飽き飽きしてしまった。金など払う気にもなれぬ。むしろ「金を払うから止めてくれ」と言いたい気分である。
確証は持てないが、これら大道芸人は南米系やトルコ系の移民が多い気がする。音楽傾向もその方面である。いつ見てもあんまりお金をもらっているような気がしないのだが、あれで稼げているのか?そもそも、トラムの運賃は稼げているのか?その前に、切符は買っているのか?
さて、これら大道芸人の演奏の中で、筆者が唯一お金を払ってもいいと思ったものがある。彼はお初の芸人だった。彼はギターを弾きながら切ないバラードを熱唱していた。前述の如く、芸人の殆どは南米系やトルコ系の移民であるから、歌詞もその母国語であることが多く、内容はさっぱり分からないのが常なのであるが、彼は非常に聞き取りやすい英語でこう熱唱していたのだ。極めて切ない調子で。
~それでも俺は大丈夫だろう~♪
…正確な英語の歌詞は忘れてしまったので拙い和訳をお送りしたが、このフレーズを哀しげに延々と繰り返すのである。筆者はだんだんと可笑しくなってきてしまった。この人にはお金を払ってもいい!と思ったのだが、この人は筆者が降りる停留所に着いてもまだこのフレーズを歌い続けていた。降りた後でもまだ熱唱していた。
この歌、彼のオリジナルなのだろうか?それともこんな歌詞の有名な歌があるのか??音楽に詳しい読者諸君からの情報を求む。
このトラム、まだまだ恐るべき生物が存在していたりするのだ。これについては明日を待てっ!