「騙しの天才」第1話
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筆者はこう見えてもイタズラ好きである。
特につまらぬことで誰かを騙すのには快感を覚える。今週はそんな筆者の「騙しの天才」遍歴を語りたい。
筆者は大学、大学院を通じて10年近く塾講師のアルバイトをやっていた。初期には小中学生に国語など教えたこともあったが、主に高校生に数学を教えていた。こう見えても教えるのは下手ではない。その証拠に優秀講師賞なども受賞しているし、高校生部門ではある支部でアルバイトにも関わらず副主任を務めていた。塾のパンフレットには名物講師として写真入りで登場したこともある。
このバイトでも面白い経験が盛りだくさんなのだが、それは後日にでも書く。
実はこのバイトで生徒たちを騙して遊んでいた。といっても数学では嘘は教えていない。あくまで取るに足りないつまらぬことである。
イタズラとして人を騙すにはそれなりの眼力がいる。まずは騙しやすそうな人間を選ばねばならない。それだけではない。騙されたと知っても笑い飛ばせるような性格の人を選ぶ必要がある。更には、騙していたという事実がいずれ分かるような騙し方をせねばならない。
このような筆者のお眼鏡に適った生徒が2人いた。
1人目の女生徒は騙しやす過ぎた。純粋なのか、何でも信じてしまうのである。どこまで無茶な嘘が通用するのか、と考え、
「電気ポットを発明したのはイギリスのポットさんという人で、ハサミを開発したのは実は日本の女性の『はさみ』さんという人やねん。」
と言ってみたが、これですら何の疑いもなく信じられてしまった。これでは簡単すぎて騙す快感がない、というか、逆に罪悪感すら感じてしまったので、この子を騙すのは止めた。無論、騙しっぱなしではなくて必ず「嘘やで」とフォローはしてきたのだが…。
2人目の女の子は騙し甲斐があった。適度に疑うし、適度に騙されやすい。しかも性格は非常に明るい子である。
ある日、高1になったばかりの彼女が筆者にこう訊いてきた。
「なんか定期テストで赤点とったら『下駄を履かせてくれるかも知れんで』って友達に言われてんけど、それってどういう意味なん??」
…これはチャンスだ。筆者の頭脳は激しく回転し、以下のような嘘を間髪入れずに叩き出した。あくまで表情は真面目なままである。
「実はな、赤点(60点以下)を取るとな、罰として60点に足らない分だけの赤い下駄を履かされるんや。例えば50点やったら高さ10cmの赤い下駄や。校内にいるときはずっとこの下駄を履いてなあかんねん。そやから赤点取ったら恥ずかしいで。」
この話を聞いて彼女は恐れ慄いた。それはいやや、頑張るわ、と言い残して筆者の元から去っていった。
翌日、筆者の元に彼女が駆け込んできた。笑いながら文句を言いにきたのだ。どうやら彼女、この話を早速学校で言いふらしたらしいのだ。そこで大笑いされたという。筆者もそれを聞いて大笑いしてしまった。彼女の素晴らしいところは「もう!恥かいたやんか!」と言いながらも笑っているところである。大阪女性はこうでなくてはいかん。
また別の日、彼女はこう聞いてきた。
「珈琲豆の『ブルーマウンテン』ってどこで作ってるん??」
筆者の頭でまたまた閃光が走った。これは騙せる! 実は筆者のアルバイトしていた塾は三重県の「青山高原」というところに生徒の合宿などに使う保養施設を持っていたのだ。筆者は間髪入れずに真面目な顔でこう答えた。
「あ、あれか。あれは実は青山高原で栽培している珈琲豆なんや。『青山』を英語に直してみ。『青い山』やから『ブルーマウンテン』、になるやろ。」
あー、そっかー!、と彼女はいたく感心したようだった。翌日、彼女はまたまた笑いながら文句を言いにきた。やっぱり学校で言いふらして恥をかいたそうだ。彼女は最高だ!
実は読者の皆さんも騙しているかもしれない筆者を騙してくれるような楽しいコメント・メールをお待ちしている。